「将来は蟻博士になりたいんです。」と聞いて、二度見ならぬ二度聞きしたのを覚えている。
昆虫博士は聞いたことがあるが、蟻専門の博士がいるのだろうか。
本当に蟻が大好きらしい。
京都市のサイエンスコンテストで佳作に入った作品は『蟻の研究』。
そのときは軽い気持ちで、「今度見せてくださいね。」とお伝えしたのだが、先日、ご丁寧なお手紙と一緒に渡されたものは、私の想像を軽く超えて本当に作品というべきものであった。
グーグルマップが貼り付けられたノートには、調査地の写真と見つかった蟻のデッサンを見開きで、事細かく蟻の特徴に自分の感想を添えてある。
近くの川辺に14種類もの蟻がいること。
その中でも彼が一番好きな蟻の名前も聞いたことが無いものだった。
サッカー選手になりたい生徒、ダンサーになりたい生徒、漫画家になりたい生徒、夢を持っている生徒はたくさんいる。
忘れてはならないのは、勉強が先にあるのではなく、彼らの夢を実現する手段として勉強があるということだ。
勉強ができるできないだけではなく、高い目標をたてること、計画をたててやること、諦めずにやりきること、人と円滑にやりとりすること、約束を守ること、塾の中でも彼らの将来に向けてつけてやれる力がどれほどあることか。
その部分は塾講師としてというよりも、大人として、先輩としてというところだろう。
教室の中で起こる生徒との一つ一つのやり取りに、どのような意味を持たせられるのかを考えていきたい。